“楽しい”を運ぶ電車「エンタメ号」移動時間に豊かな価値を

DATE :

2026.8.31

  • #

    対談

「エンタメ号」は映画やアニメ、音楽、イベントなど、東急グループが関わるエンタメ施策と連動し、その世界観で電車内を彩る試み。2025年4月から、東横線と田園都市線でそれぞれ1編成ずつ展開されています。

 

本記事では本プロジェクトを推進する東急株式会社 文化・エンターテインメント事業部 エンターテインメント戦略グループの山岸一基と渡邊彰浩にインタビュー。電車内という公共空間において、安全性や快適性に配慮しながらエンタメ体験を生み出す工夫について聞きました。

エンタメで車両をジャック

東急株式会社 文化・エンターテインメント事業部 エンターテインメント戦略グループ 部長 山岸一基

──「エンタメ号」の中には、どんな空間が広がっているのでしょうか?

 

山岸 車両内のすべての広告枠がエンタメ情報でジャックされた電車を、東横線と田園都市線でそれぞれ1編成ずつ、年間を通して走らせている取り組みです。連動するコンテンツは、事業規模や新規性を見ながら、3週間から1カ月のスパンで切り替えています。

 

渡邊 ただ情報を届けるだけではなく、乗車した方々の感情が動くような空間づくりを意識してきました。目的地に到着する前からワクワクするような体験をしてもらいたいと考えています。

 

山岸 電車内を活用し、乗客の皆さまに多様なエンタメの世界観に触れていただくことで、日常生活における“楽しい”を提供しております。

東急株式会社 文化・エンターテインメント事業部 エンターテインメント戦略グループ 参事 渡邉彰浩

 

──お二人はそれぞれ、どのような立場で関わってきたのでしょうか?

 

山岸 プロジェクトの立ち上げ時は渡邊が本社で企画を動かしており、私は東急歌舞伎町タワーのマーケティングを担当していました。その後、社内の人事異動があり、私が本社でエンターテインメント領域のブランディングや「エンタメ号」のコンテンツ編成を手がけるようになり、逆に渡邊は東急歌舞伎町タワーの運営を担当することになったんです。お互いの立場をクロスさせながら連携している感覚があります。

 

渡邊 現在は、山岸が各施策担当から集まる企画の調整や編成を担っています。私の役割は、東急歌舞伎町タワーという現場の視点から、施設のコンテンツを「エンタメ号」につなげていくことです。

 

エンタメが人を動かす

──電車の中でエンタメに触れてもらう意義について、どうお考えですか?

 

山岸 東急はインフラを中心に、ハードとしての“街”をつくってきました。しかし街は、建物を作るだけでは完成しません。そこに“人”が集まることで、初めて命が吹き込まれる。そして“人”を動かす大きな原動力が「楽しい」という感情。つまりエンターテインメントだと考えています。

 

渡邊 ライブやイベントって、会場に到着した瞬間だけが楽しいわけではないですよね。当日を迎えるまでの期間も含めて、すべてがエンタメ体験だと思うんです。移動中の思いがけない出会いを生むことに、鉄道会社が取り組む意味があると感じています。

 

山岸 ただ目的地へ向かうだけでなく、「エンタメ号」に乗った瞬間に、イベントのプロローグになる。そうすることで、街へ行く期待感や高揚感も膨らんでいくのではないでしょうか。

劇場版「僕とロボコ」と連動して2025年4月から5月にかけて運行した車両。
映画「タローマン」と連動して2025年7月から9月にかけて運行した車両。

──これまで、どのようなコンテンツと連動してきたのでしょうか?

 

渡邊 音楽、映画、アニメ、劇場公演、街のイベントなど、コラボ相手は多岐にわたります。主に東急グループが関与している案件と連動してきました。

 

──特に思い出深い施策を挙げるとしたら?

 

山岸 乃木坂46をはじめとした坂道グループとのコラボイベント「新参者 二〇二五 in TOKYU KABUKICHO TOWER」ですかね。

東急歌舞伎町タワーで行われた「新参者 二〇二五 in TOKYU KABUKICHO TOWER」と連動して2025年10月から11月にかけて運行した車両。

渡邊 これは東急歌舞伎町タワー内でのライブ興行やジャック展開、テナント店舗コラボに加えて、渋谷駅構内での大型OOHボード展開、SHIBUYA109での物販など、歌舞伎町と渋谷を横断する大型企画でした。

 

山岸 この期間は東横線と田園都市線で計2編成の「エンタメ号」が走りました。渋谷と歌舞伎町をきれいにつなげたことが、私たちの中で大きな手応えとして残っています。

 

渡邊 街や施設の枠組みを飛び越えた“オール東急”の取り組みになったと思います。特に印象的だったのは、たくさんのUGC(一般消費者が自発的に作成した文章、写真、動画などのコンテンツ)が生まれた点。東急からの一方通行ではなく、ファンの方々を巻き込んで、一緒につくり上げることができました。理想的な事例だったと感じています。

電車を活用した没入体験

 

──電車内という公共空間ならではの難しさはありますか?

 

渡邊 鉄道は皆さまの安心安全を守り、快適に移動していただくためのインフラです。そのため、ファンの方々が喜ぶ表現を追求しながらも、車内が過度に混雑して運行の安全を妨げたり、一般のお客さまの快適性を損なったりしないよう、表現のバランスやルールづくりに細心の注意を払う必要があります。

 

山岸 一番難しいのは、音を使わずに表現することです。電車内の大切なアナウンスがきちんと届くように、私たちは直接音声を出さない形でエンタメを展開しています。例えば、電車内にQRコードを掲出し、スマートフォンで読み込んで聴きたい人だけに限定音声を聴いてもらう施策など、制限がある中でもできる表現を常に模索しています。

 

渡邊 乗客の皆さまに新しい没入体験を提供するにはどうすればよいか。「エンタメ号」には大きなポテンシャルがある一方で、課題も多いです。

 

山岸 短い乗車時間の中でエンタメの世界観を感じてもらうためには、車両全体の空間演出が重要です。例えば、東横線は赤系、田園都市線は緑系といったように、車内の色味が異なるので、そういったトーンをあらかじめ把握し、グラフィックの配色を調整すると、空間としての没入感を高めることができます。

PUSHIMと連動して2025年7月に運行した車両。

渡邊 田園都市線の車両には、3つ横並びになったモニターがあります。それらを連動させて、横長の大きなスクリーンのように活用し、特撮作品のダイナミックな戦闘シーンを表現した事例もありました。デジタルならではの見せ方も、もっと工夫できると思っています。

 

──2026年7月下旬から8月上旬にかけては、田園都市線を中心に10両編成の車内を使った企画「ピーターラビット™トレイン」が展開されました。この取り組みはいかがでしたか?

2026年7月下旬から8月上旬にかけて運行した「ピーターラビット™トレイン」。

山岸 今回は「冒険」というテーマで皆さまから募集した写真を、グラフィックに使用しました。誰かのリアルな思い出が車内に掲出されることで、コンテンツがぐっと身近になります。キャラクターが目に入るだけではなく、そこに参加者の体温やストーリーが加わる。そうすることで、車内空間がより親しみのある場所に変わっていくと感じています。さらに「ピーターラビット™トレイン」は東急沿線の商業施設とも連動していたので、電車の中だけで完結せず、沿線での体験にもつながる企画になりました。

 

渡邊 「エンタメ号」を“見るもの”から“参加するもの”に広げていくうえで、「ピーターラビット™トレイン」は大きなヒントになったと思います。

行くまでがエンタメ、帰るまでもエンタメ

 

──「エンタメ号」を今後、どのように発展させていきたいですか?

 

山岸 将来的には、電車内をより没入感のある空間にして、線路の上を走る電車だけでなく、その周辺も含めてイベント空間として活用するなど、鉄道という枠組みを飛び越えたエンタメ展開も実現していきたいです。

 

渡邊 東急は電車以外にもさまざまな乗り物でエンタメを提供しており、例えばオープントップバスが「ハイキュー!!」や「僕のヒーローアカデミア」とコラボして、ラッピング運行や限定音声配布をした事例もあります。電車以外の乗り物も含めて、さまざまなクリエイティブパートナーと手を取り合い、移動を楽しくする仕組みを育てていきたいですね。

──最後に「エンタメ号」の乗客に向けて、メッセージをいただければ幸いです。

 

渡邊 東急線は、多くの方の生活の真ん中にある、とても日常的な場所です。ふと乗車した瞬間に、素晴らしい作品や心躍るイベントと偶然出会う。「エンタメ号」を通じて、皆さまの日常の移動時間が少しでも豊かで価値のあるものになればうれしいです。

 

山岸 行くまでがエンタメ、帰るまでもエンタメ。東急線に乗った皆さまが、一日の始まりと一日の終わりに、少し前向きになれるような、そんな“楽しい”を運ぶ電車として、「エンタメ号」はこれからも走り続けていきます。

 

SHARE :

check_circle

URLをコピーしました