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東急が仕掛ける次世代アーティスト発掘オーディション「SCRAMBLE AUDITION」。ジャンルや年齢を問わず集まったアーティストたちが、音源審査、リスナー投票、ライブ審査を経て競い合い、グランプリに里緒、準グランプリに482ズが選ばれました。東急はなぜ、音楽オーディションに乗り出したのか? レコード会社でも芸能事務所でもなく、街づくりを担う企業がアーティストを発掘し、支援する理由とは。そして、ライブ審査で見えた“人の心を動かす力”とは。企画を手がけるエンターテイメント戦略グループの原健に話を聞きました。
──まずは昨年開催されたイベント「渋谷のうた2025」(「SCRAMBLE AUDITION」の前身)について、お話を聞かせてください。「渋谷のうた2025」は、どのような経緯で始まったのでしょうか。
2024年に「FROM STREET PROJECT」というプロジェクトの取り組みのひとつとして、まずアーティストが演奏できる場所を提供する施策「Shibuya Street Live」を始めました。その出演者たちと会話する中で、「もっと多くの人に知ってもらえる機会がほしい」「いろんなオーディションに応募している」という声を聞いたんです。楽曲のクオリティや歌唱力が高くても、売れるとは限らない。実力のほかに、運や縁が大事だと感じています。それなら、僕たちがその機会をつくることにも価値があるんじゃないかと。ちょうどその頃、「渋谷音楽祭」(今年で21回目の開催となる音楽イベント)でSHIBUYA109の前にステージを設けることになり、出演アーティストをオーディションで決めるべく立ち上がったのが、音楽コンペティション「渋谷のうた2025」です。

東急株式会社 文化・エンターテインメント事業部 エンターテインメント戦略グループ 部長 原健
──「渋谷のうた2025」を開催してみて、手応えはいかがでしたか?
初めての取り組みでしたし、準備期間も短い中では、期待以上の手応えがあったと思います。一方で課題としては、受賞者だけでなく、受賞できなかったアーティストにもっと何か返せたんじゃないかということ。オーディションを単に“選ぶ場”にするのではなく、参加した人のスキルアップにつながる機会にしたいと思ったんです。
──その経験を踏まえて今年、「渋谷のうた2025」は「SCRAMBLE AUDITION」へと進化しました。「SCRAMBLE AUDITION」という名称に込めた思いについて聞かせてください。
キーワードは「混じり合う」です。このプロジェクトは、東急だけでなく、街の方や音楽業界の方など、いろんな人と一緒になって進めていて、さまざまなノウハウが混じり合うことで、新しいクリエイティビティが生まれることを実感してきました。それはアーティストも同じだと思うんです。一人の才能だけですべてを完結させるのではなく、いろんな人と交わりながら、よりよい音楽を追求していく。そもそも渋谷自体が、昔から多くの人やカルチャーが混じり合ってきた街でもあるので、「SCRAMBLE」という言葉がぴったりだと思いました。

「渋谷音楽祭2025」で設けられたSHIBUYA109前の特設ステージ。
──「渋谷のうた2025」と「SCRAMBLE AUDITION」の違いはどんなところにあるのでしょうか?
「SCRAMBLE AUDITION」では、音楽プロデューサーの寺岡呼人さんとCarlos K.さんに審査員を務めていただき、ライブ審査に進んだアーティストに、お二人が直接フィードバックする機会を用意しました。ライブ審査後には交流の場も設け、アーティスト同士はもちろん、僕たちやプロデューサーとも話せるようにしたんです。また、インディーズ音楽プラットフォーム「Eggs」のチームとも連携して、企画をブラッシュアップしました。「Eggs」はアーティスト自身の音源やミュージックビデオを発信できるプラットフォームで、オーディションのノウハウも持っています。「FROM STREET PROJECT」で連携して以来、率直に意見を言い合える関係ができていましたし、名称やキャッチコピー、受賞者に提供するものなどについても意見をもらいながら、一緒に「SCRAMBLE AUDITION」を作り上げました。

「SCRAMBLE AUDITION」のバナー。
──オフィシャルサイトに記載されているメッセージ「渋谷から世界をビビらせようぜ」も印象的ですね。
渋谷には、音楽に限らずカルチャーの発信拠点としての資質があります。そんな場所から始めることが、アーティストにとっても期待につながるんじゃないかと思っています。ここでいう「世界」は、海外だけを意味しているわけではありません。世の中に対してでもいいし、誰か一人に対してでもいい。それらを全部まとめて「世界」と表現しています。「ビビらせようぜ」には、「本気で一緒に挑もう」という気持ちを込めました。東急とアーティストだけでなく、街やファン一緒にメイト(仲間)になってほしいと思っています。
──そもそも街づくりをする東急が、次世代アーティストの発掘に取り組むのはなぜなのでしょうか?
東急は長年、「エンタテイメントシティSHIBUYA」を掲げ、“エンタメ×街づくり”に取り組んできました。その中で僕たちがやっているのが“音楽×街づくり”です。次世代アーティストの発掘と言いながら、発掘するだけで終わりではなく、その先も一緒に伴走していく。支援する側、される側というより、「一緒にやることで、お互いにとって何がいいんだろう」と考えながら、同じ方向に進んでいくパートナーでありたいと思っています。僕自身、今も「Shibuya Street Live」へ足を運び、アーティストと会話する機会がありますが、彼らがいつか大きく羽ばたいたときに、「渋谷で活動していたんだ」「あのオーディションに出ていたんだよね」というストーリーが生まれれば、それがまた渋谷という街の魅力にもつながると思っています。何年かかるか分からないし、実現しないかもしれない。それでも、地道にやっていくことが大切だと思っています。

──東急だからこそできる支援はありますか?
東急が得意としているのは“場所”の提供ですね。素晴らしい曲を作っても、活動を始めたばかりのアーティストにとって、人目に触れる場所で披露することはハードルが高い。僕たちはそこを整えることができます。今はアルゴリズムによって、自分の好みのものが自然と提示される一方で、興味の外にあるものとは出会いにくい。でも街中などのリアルな場所なら、たまたま音楽が聞こえて、知らなかったアーティストに興味を持ったり、好きになったりすることもある。そんな“偶然の出会い”をつくることが、東急の役割だと思っています。
──「SCRAMBLE AUDITION」では、どのようなアーティストと出会いたいと考えていますか?
大事にしているのは、音楽を通して世の中にポジティブな影響を与えようとしているアーティストと出会うこと。応募者の中にはシンガーソングライターもいるしバンドもいる。全国の学生から社会人の方まで、幅広い応募がありました。審査をするうえで、完成度よりも重視しているのは、将来性を感じられる何かがあることです。応募理由やSNS、ライブ映像なども参考にして、本気度や熱量も見ました。

──リスナー投票とライブ審査も取り入れていますよね。
はい。音源がよくても、ライブではまだ成長途中だと分かることもあるし、その逆もあります。実際、リスナー投票とライブ評価にも違いがありました。だからこそ、いろんな角度から見ることに意味があると思っています。ライブでは、歌や演奏の上手さだけではなく、観客の前に立ったときにどう見えるか、どんな空気を作るか、を確認することができます。
──“才能がある”とはどういうことだと考えていますか?
完成度ももちろん大事ですが、何より、人の心を動かす力があること。もしくは、今後それを持てそうなこと。「渋谷から世界をビビらせようぜ」という言葉の通り、これから一緒に挑戦していく仲間を探しています。単に上手い人を選ぶのではなく、一緒に本気でやっていきたいと思える人に出会いたい。それが、このオーディションで大事にしていることだと思います。
──最終審査では、選考を勝ち進んだ7組が渋谷のライブハウスでパフォーマンスしました。ライブを観て、まずどんなことを感じましたか?
パフォーマンスの経験値に差はありましたが、7組とも、自分の音楽を認めてもらってここまで来たという自信があるように感じました。1曲目の演奏ではまだ硬かった人が、2曲目、3曲目と進むにつれて生き生きとしていく。ファンとのコール&レスポンスも自然に生まれて、とにかく演奏を楽しんでいる姿が印象的でしたね。その場で少しずつ変わっていく姿を見て、まさに成長の過程を目撃しているような感覚がありました。

最終審査の様子(撮影:マチダナオ)。
──音源を聴いたときと比べて、どんな違いを感じましたか?
僕は審査員ではないので誰がどうという評価はできませんが、例えばバンドであれば、メンバー同士が目を合わせたり、その場で掛け合ったりする姿から関係性が見える。MCにも人柄が出ますよね。技術的なことはプロの審査員に任せますが、音源だけでは絶対にわからない空気や人柄は、実際に見て初めて伝わるものです。
──会場のお客さんの反応はいかがでしたか?
ジャンルの異なる7組が一堂に会して、それぞれ目当てのアーティストを見に来たファンの方々がいるんですが、自分の好きなアーティストの出番が終わっても、ほかの出演者のライブを楽しんでいました。後ろに下がっても一緒に盛り上がったり、コール&レスポンスに参加したりする。普段はイヤホンで音楽を聴くことが当たり前になっている人も多いと思いますが、同じ場所に集まって、知らなかった音楽まで一緒に楽しむ体験には、リアルならではの価値があります。それを見て、東急がなぜ街づくりの一環として音楽やエンターテインメントに取り組んでいるのか、改めて実感しました。いろんな人と同じエンタメを共有できる街は強い。今回のライブ審査を通して、そんな手応えも感じました。

ファイナリスト7組の集合写真(撮影:マチダナオ)。
──音源審査とライブ審査では評価が大きく変わったそうですね。改めて、ライブ審査ではどんな点が評価を分けたのでしょうか?
ライブでは、自分たちの世界観を“エンタメ”として観客に届けられるかどうかが問われます。特に評価を分けたのは、歌詞や言葉がきちんと届くか、ボーカルに存在感があるか、観客に向けたパフォーマンスができているか、そしてライブの経験値でした。
──最終的に、グランプリには里緒さん、準グランプリには482ズが選ばれましたが、決め手はどこにあったのでしょうか?
2組に共通していたのは、ステージ上で自分たちの世界観をきちんと成立させる力です。何より、自分たちの音楽を信じて、誰かに届けたいという強い意志を感じました。「渋谷から世界をビビらせようぜ」というSCRAMBLE AUDITIONのメッセージを、一緒に実現したいと思えたのが、里緒さんと482ズだったんです。

グランプリを受賞した里緒(撮影:マチダナオ)。
里緒さんについては、審査員のCarlos K.さんも、歌い出しから「プロとしてショーを届ける」という姿勢が圧巻だったと話していました。途中で機材トラブルがあっても、それすら瞬時にパフォーマンスへ変えてしまう対応力を高く評価されていて。ライブだからこそ見えた強さが、評価につながったのだと思います。

準グランプリの482ズ(撮影:マチダナオ)。
482ズについては、寺岡呼人さんが「流行のスタイルとは真逆の正統派ロックバンド」と表現していた通り、若さゆえの勢いだけではなく、ボーカルのピッチや演奏力が安定している点が評価されていました。そのうえで、今の音楽性を壊すくらいどんどんチャレンジして、若さという特権を思う存分使ってさらに飛躍してほしい。今ある魅力だけではなく、この先さらに大きく化けていくことが期待されています。
──今回の「SCRAMBLE AUDITION」を振り返って、原さんはどんなことを感じましたか?
音楽ジャンルも演奏形態も、年齢も性別も問わず募集したことで、全国から本当に多種多様な音楽が集まって、初めて聴く曲ばかりだったのに、「これ、好きだな」と思える曲にたくさん出会えたことに驚きました。「SCRAMBLE AUDITION」などを通して、次世代アーティストの音楽と人との接点をたくさんつくる。それによって、たまたま出会った誰かの心が、少し豊かになるかもしれない。そう考えると、この仕事を続ける励みにもなります。里緒さんと482ズには、これからも「FROM STREET PROJECT」として寄り添い、サポートしていきたいです。2組の音楽が世の中に広がっていくことはもちろん、アーティストとして成長していく姿も楽しみにしています。そして2組の姿を見た次のアーティストが「自分も渋谷から名を上げたい」と、こうした機会に挑戦してくれる。そんな循環が生まれたらうれしいですね。

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