鈴木菜音&浦浦 浦ちゃんは「東急エンタメイト」をどう描いたのか、ブランドアニメができるまで

DATE :

2026.8.27

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    対談

「東急エンタメイト」は「まちも、人も、好きが動かす」をコンセプトに、東急がエンターテインメント領域で取り組む活動や、その世界観を象徴する事業ブランド。そのローンチに合わせて制作されたのは、渋谷を舞台に、異なる「好き」を持った若者2人の出会いと創作を描いた約1分のアニメーションでした。監督を務めた鈴木菜音さんと、キャラクターデザインを手がけた浦浦 浦ちゃんは、「東急エンタメイト」という世界観をどのように1本の物語へと落とし込んだのか。作品が生まれるまでの対話と、制作の裏側を聞きました。

好きなことに没頭する

本作の監督を務めた鈴木菜音さん(写真左)と浦浦 浦ちゃん(写真右)。

──今回のアニメーション制作に伴い、東急からお2人へ提示されたのは「渋谷や新宿・歌舞伎町を舞台にした若者2人の出会い」というテーマだったそうですね。オファーを受けた当時のことを聞かせてください。

 

鈴木 私が最初にオファーを受けたとき、「東急エンタメイトは、東急が持つ場を活かしてクリエイターの方々と仲間になり、楽しさを生み出す活動にしたい」とお聞きして、東急さんが作りたいものを作るのではなく、クリエイターの自由な表現に期待してくれていると感じました。コンセプトや企画、コンテなどの大枠がありながらも「設定は壊していただいて大丈夫です」とはっきりと言ってもらえて。だから浦浦 浦ちゃんには、私の考えを伝えるというより「どうする?」「浦ちゃんならどんな人を描きたいですか?」というところからお話ししました。

 

浦浦 浦ちゃん 僕は「キャラクターデザインをしてほしい」というオファーをいただきました。普段はキャラクターデザインだけでなくアニメーション制作も併せて受けているんですが、キャラクターデザインだけの依頼は初めてで、「どうなるんだろう」というワクワク感とともに作業を始めました。

 

浦ちゃん 僕にとって東急さんといえば渋谷。渋谷といえばポップカルチャーという印象があったので、「キャラクターは結構派手でも許されるんじゃないか?」と考えていました。だから鈴木さんとお話ししたあと、一度は突き抜けたデザインを提出して、そこから微調整していったんです。完成した映像を観ると、僕がデザインしたキャラクターが生き生きと動き回っていて、好きなことに没頭する若者の楽しさがしっかり伝わってくるアニメーションになっていると思いました。

可能性が広がる関係

 

──今回のアニメには音楽を創作するLily、アニメーションを創作する良太郎(イイタロウ)が登場します。異なるジャンルに携わる2人を主人公にしたのはなぜでしょうか?

 

鈴木 好きなことで活動するクリエイター同士だけど、Lilyはピアノ演奏、良太郎はアニメーション制作をしています。それぞれが違う分野で制作活動をしていることで、お互いの可能性が広がっていくという関係にしたかったんです。

 

──アニメの冒頭シーン、電車の中で良太郎がLilyに気付くシーンがあります。この場面にはどんな意図が込められているのでしょうか?

 

鈴木 SNS上で見ている人や憧れの人が目の前にいるって、東京ならではというか、渋谷ならあり得そうだし、ロマンチックですよね。そんな偶然が起こるパブリックな場所といえば電車。私自身も東京に住んで東横線を使っているんですが、電車や街中で「◯◯さんだ!」と気付いてテンションが上がる感覚も含めて、現代的な出会いの場として電車を選びました。もう一つ伝えたかったのは、良太郎の「好き」に対する熱量です。自分の目の前にいたら、ちょっとしたアクセサリーやネイルだけでも本人だと気付くことができるかもしれない、そうしたらきっと声をかけてしまう。良太郎の迷わない行動力、猪突猛進なところがあるから、Lilyともその後、仲間になっていけるんですよね。

 

──そんな2人が「MVコンテスト」に挑戦する展開はどのように生まれたのでしょうか?

 

鈴木 当初は良太郎がLilyに「MVをつくらせてほしい」と声をかけるだけのストーリーだったんです。でも打ち合わせ時に東急の担当者さんが「東急はクリエイターにエンターテインメントをつくるフィールド、場所を使ってもらうために存在している」とおっしゃっていたことを思い出し、渋谷という街で開催するコンテストにしたほうが面白いと考えました。

正反対の2人

  

──キャラクターデザインは、どのように考えていったのでしょうか。

 

浦ちゃん まず男女のキャラクターにすることが決まり、それから大人しい子と活発な子、真面目な子とやんちゃな子といった、内面の対照性を考えていきました。加えて「正反対の2人」をより印象づけるために、Lilyはすごく長身なのに内気、良太郎は身長は小さいけど存在感が大きいという設定にしました。

 

──鈴木さんが初めてキャラクターのデザインを見たときの気持ちは?

 

鈴木 とてもうれしかったですね。クライアントワークでは、企業や監督の意向に寄り添ってくださるアーティストの方も少なくありません。しかし浦ちゃんには、キャラクターデザインで思い切り自分の表現を出してほしいと思っていました。その中で上がってきたのが、アバンギャルドなズボンを穿き、背中には羽が生え、尻尾までついた良太郎でした。「これを持ってきていいんだ!?」と思うくらい、突き抜けた案が上がってきたんです(笑)。驚きを超えて感動しました。

 

浦ちゃん 良太郎が派手で激しいビジュアルなのに対して、正反対のLilyは青と緑を基調にしています。服もLilyは黒、良太郎は白と、反対色を意識しました。

最終的に下駄を履く設定となった良太郎だが、浦浦 浦ちゃんが当初アップした案では獣のような足になっていた。
こちらはLilyのキャラクター設定。装飾品まで細かく描き込まれている。

恋愛より優先すべきこと

 

──男女2人の出会いを描くうえで、意識したことはなんですか?

 

鈴木 いわゆる“ボーイ・ミーツ・ガール”の作品は、もう山ほどあるじゃないですか。男女が出会うと、どうしても「恋愛が始まりそうだな」と思われてしまう。しかし今回のコンセプトは、仲間になっていくことです。「ラブストーリーか」と思われてこの作品から人が離れてしまわないように、恋愛の雰囲気は避けました。

 

浦ちゃん 恋愛をしない人って他のことに夢中で、自分のやりたいことがあるのではないかと思うんです。若い男女2人が出会うけど、それぞれに恋愛より大事で優先すべきこと、つまりアニメーションや音楽があるから、他者や異性と出会っても恋愛関係になりにくいのではないかと。2人を奇抜な方向へ振ったのも、他者を意識する恋愛より、好きなものに没頭する姿勢を示したかったからです。

 

鈴木 浦ちゃんのその話を聞いて腑に落ちたというか、「この2人ならいける」と思えました。それぞれが自分の好きな世界をきちんと持っているからこそ仲間になれる。そして、2人が一緒に創作に打ち込むストーリーが出来上がりました。

 

渋谷の景色を掘り下げる

 

──鈴木さんは、この作品を通して渋谷をどのように描こうと考えましたか。

 

鈴木 私自身も東横線ユーザーで、渋谷には馴染みがあります。今回のアニメでは、ランドマークであるQFRONTから渋谷センター街、渋谷スクランブル交差点など、自分の記憶に当たり前にある景色をもう一度、掘り下げるつもりで表現しています。また海外の方が観ても「渋谷だ」とすぐ分かる景色にしたかったので、特に象徴的なものを入れるように心がけました。

 

──誰もが知る大企業やお店が実名で登場していることに驚きました。思い入れのあるロケーションはありますか?

 

鈴木 良太郎がLilyに路上ライブをしてほしいとお願いするシーンがあって、そこで登場するガストですね。私にとって、渋谷のファミレスといえばガスト。良太郎とLilyが座っている席も実在していて、店舗にご協力いただき、そのままロケーションとして使わせてもらいました。作品に協力的なお店が多くて、登場する場所を比較的自由に選べたんです。

ガストのシーン。画面左下には、浦浦 浦ちゃんらしきキャラクターが登場している。

浦ちゃん 実はこの件に携わって初めて知ったのですが、今の日本では路上ライブを実施するのが難しいんですね。でも渋谷や歌舞伎町に関しては、東急さんが制度づくりをしているおかげでそれができる。今回の作品に路上ライブのシーンが入っていることにも、大きな意味があると思います。

──物語を1分に凝縮するのは、大変だったのではないでしょうか?

 

鈴木 本当に必要な情報だけを見極め、それ以外を削るという作業を繰り返したのですが、全シーンのクオリティを下げずに、要素を詰め込むのはとても大変でした。

 

──特に注目してほしいポイントはどこですか?

 

鈴木 映像の42秒くらいからはじまる部分。ここを私は“サビ”と呼んでいます。良太郎とLilyがそれぞれの制作に没頭するシーンで、アニメーターの方には「とにかくダイナミックに!」とだけ伝えていたんですが、その仕上がりが本当に素晴らしくて! 躍動感のあるイラストや画角によって、ものづくりに夢中になる2人の喜びや楽しさ、高揚感が見事に表現されています。

“サビ”のラフ画。

 

浦ちゃん 僕は1分間の中でも、比較的長く尺を割いている電車のシーンですね。2人の出会いを描いたシーンなので、アニメーター陣も表情などに力が入っていると感じます。個人的には、口をあんぐりと開けた良太郎の顔が気に入っています。

 

鈴木 今回の作品では、音楽も大切な役割を担っています。別々の道を歩いてきたLilyと良太郎が重なって、創作の仲間になる。セリフが一切ない分、その思いは歌詞に託しています。曲調に関しては音楽プロデューサーの方と相談して、楽曲の尺や、転調する秒数、スピード感など、細かく調整しました。

 

街とクリエイターは“創作の仲間”

 

──制作を終えた今、「東急エンタメイト」についてどう思いますか?

 

浦ちゃん 今回のチームは、依頼する側と受ける側ではなく、一緒につくる仲間のようでした。僕のほうからも「これはどうですか?」など遠慮なく提案できて、それをきちんと受け止めてもらえた。それこそが“エンタメイト”だと思います。鈴木さんをはじめ、多くの方と一緒に進められて、別のアニメーターの方が、自分がデザインしたキャラクターに、自分では描かない動きや表情を加えてくれました。今回のお仕事を通して、集団制作の魅力に触れられた気がします。

 

鈴木 私は信頼しているクリエイターの方々に「好きにやっちゃってください!」と仕事を託すのが好きなんです(笑)。そういう意味で、「東急エンタメイト」のスタンスにとても近いと思います。街がクリエイターを応援するだけでなく、街とクリエイターが一緒につくる。今回、東急さんとご一緒したことで、クリエイターと街がこんなふうに“創作の仲間”になれるんだとうれしくなりました。

 

──この作品をどんな方々に届けたいですか?

 

鈴木 誰かと何かを始めてみたいと思っている人に観てほしいです。そしてアニメーションを観たあとに、「何かつくりたい」「自分もやってみよう」と少しでも思ってもらえたら、本当にうれしいですね。

 

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