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対談
東急が運営している「Museum of Imaginary Narrative Arts[MINA]」は、渋谷駅に程近い、渋谷3丁目に佇むミュージアム&カフェです。プロデュースを手がけているのは、「コーヒーのある風景」をテーマに活動するアーティストユニット・L PACK.(エルパック)。東急はなぜ彼らとともに、ミュージアムカフェをつくったのか。本記事では、東急のアート&カルチャー事業担当・荻野章太と、L PACK.の小田桐奨さんに話を聞きました。
──MINAという場所をひと言で表現するとしたら?
小田桐 「ミュージアムでありカフェ」ですね。この話を相談されたとき、渋谷の駅前で何かやるなら、ただのカフェではなく、もう少し公共性のある場所にしたいと思ったんです。機能も見た目もカフェだけど、「ミュージアムです」と言い切ろうと。多くの人にとって、ミュージアムやアートはまだ非日常の存在だと感じているので、この機会に生活の延長上で触れられる場所をつくりたいと思いました。

小田桐奨(L PACK.)荻野 MINAの企画案をL PACK.から提案を受けたとき、「街にアートが染み出す場所」になるイメージが湧きました。表向きはカフェですが、アートが景色の一部として自然と同居する景色です。メニューを開けば喫茶店のようなドリンクやフードが並んでいて、フライドポテト、唐揚げ、ナポリタンなど、子供も大人も楽しめるから、普通にご飯を食べに来る。それでふと目線を上げたら、アート作品がある。ミュージアムの展示室のベンチで食事ができる特別感もあり、喫茶店オーナーのこだわりの作品がたくさん展示されている喫茶店で食事をする安心感もある場所です。

東急株式会社 文化・エンターテインメント事業部 エンターテインメント戦略グループ アート&カルチャー事業担当 荻野章太
──内装面で工夫したのはどんなことですか?
小田桐 まずは壁ですね。ミュージアムとして作品の見え方を優先するなら真っ白な壁がいいけど、カフェとして来た人にとっては少し緊張感がある。だから、作品と人の両方にとって居心地のいい色を考えました。さらに、展覧会の内容によっては、作品そのものをテーブルにして、お客さんがそこで食事をすることもあります。“観ること”だけでなく“使うこと”も体験することで、「ミュージアムってなんだろう」と考え直せる場所になったらいいなと思っています。

MINAの内装。展示内容は季節ごとに新しくなる。──カフェ目的で来た人が作品を観ていることもありますか?
小田桐 よくあります。フード&ドリンクメニュー兼季刊誌「COFFEE TABLE BOOK」の後半には、展示作品にまつわる読み物を掲載しているので、お客さんが注文後にそれを読み始めて、そのまま立ち上がり作品を観る。最初から展示目的で入ってくる人とは動きが違うので、わかるんですよ。その光景を見ると、グッときますね。
荻野 お店側が「こう過ごしてほしい」と過ごし方を決めてしまうと、限られた人のための場所になってしまう。でも、ここに来る理由は「アートが観たいから」でもいいし、「ナポリタンが食べたいから」でもいいんです。

「COFFEE TABLE BOOK」
看板メニューの一つである「鉄板ナポリタン」。塩麹を使った自家製ケチャップは優しい味わいで、溶き卵とのコンビネーションも抜群。
──決め過ぎないことが、居心地のよさにつながっている?
小田桐 そうですね。場所そのものを強くラベリングすると、「自分はここにいてはいけない」と感じる人が出てきてしまうので。一方で、人の過ごし方に関しては、僕たちがデザインしていて、先ほど話した壁の色や照明や、アート作品、メニュー、それぞれの組み合わせを含めた全体のバランスを大事にしています。近いものを挙げるなら、茶の湯かもしれません。茶の湯って、お茶も人も含めた総合芸術ですよね。日本に古くからある“飲食する場”のあり方を、ここで作り上げている感覚はあります。
──小田桐さんが「コーヒーのある風景」をテーマに活動するようになった経緯を教えてください。
小田桐 静岡文化芸術大学空間造形学科で建築を学んでいた頃、ある日、行きつけだったレストランでコーヒーを飲みながら「この風景自体が建築なんだ」と店主に教わりました。コーヒーそのものというより、コーヒーを飲む人や時間、空間。建物は建てたあと、どう使われるかのほうが大事だと思いました。それから同級生の中嶋哲矢と一緒にL PACK.というユニットを組んで、「コーヒーのある風景」をつくるべく、かれこれ20年くらい活動しています。
──東急はなぜMINAを一緒につくるパートナーにL PACK.を選んだのでしょうか?
荻野 東急は鉄道のような交通インフラ事業から、駅の立ち食いそば屋さんのような日常に寄り添う事業、そしてBunkamuraのようなハイエンドな文化施設まで、幅広く展開している会社です。そこで「日常と非日常の境界が曖昧になった場所をつくれる人は誰だろう」と考えたとき、L PACK.が思い浮かびました。過去に東急池上線沿いの池上という地域でプロジェクトパートナーとして協働した際、L PACK.は携わった地域の人々と、アーティストとしてではなく、「小田桐くん」「中嶋くん」として、関係をつくっていました。あとから「実は芸術祭にも出ているアーティストだったんだ」と知られて、まちの人たちが驚く訳ですが、それこそが、アートと日常の境界線がなくなっている状態だと思ったんです。


サイフォン式で抽出される「MINAブレンドコーヒー」。
── MINAは渋谷3丁目にありますが、荻野さんは当初、この街にどんな印象をお持ちでしたか?
荻野 いい意味で印象が薄いエリアだと思っていました。今の渋谷には“消費する街”、“消費される街”という側面があります。でもかつては、何かが生まれたり、育まれたりする街だったと思うんです。渋谷3丁目には金王八幡宮のように長い歴史を持つものもあり、商業に染まりきってはいない。だからこそアートとの相性もいいですし、人が集まって「何かやってみよう」と思える余白がまだ残っている。MINAの特性ともマッチしていると思いました。

──小田桐さんはいかがですか?
小田桐 渋谷三丁目には、道玄坂やセンター街のような強いイメージがない。だからこそ、先入観なく入れました。僕らは拠点をつくるとき、その周りで生活する人たちのためにつくることを考えます。この街には会社も学校もあるし、住んでいる人もいる。そんな変わらない風景の中に、新しく何を入れられるのか考えるところから始めました。
──MINAでは展覧会だけでなく、ラーニングプログラムなども行っていますね。
小田桐 もともとアートに興味がない人でも「これなら参加できる」と思えるイベントやプログラムを企画することで、カフェとはまた別の入口を作りたいと思っています。そこで人々との関係ができれば、アートも自然と外へ広がっていきますよね。
荻野 東急は、そこにスピードを加える役割かもしれません。待っているだけでは届かない人もいるので、こちらから街に働きかけて関係性をつくる。今後は、街の人が集めているものを取材する企画も考えています。
小田桐 さまざまな企画を通して、MINAが渋谷3丁目に訪れるきっかけになることもあると思います。ここがなければ、この辺りに来なかった人もいるでしょうから。
荻野 先日は、彫刻家の方が作った型にL PACK.が練り物を作って、おでんの具にして振舞う「LA 彫刻おでん屋台」というパフォーマンスイベントを開催したんです。おでんを振る舞う中で、地元のおばあちゃんがタッパーを持って来たりして(笑)。アートが好きな人以外にも届いて、すごくいい企画だったなと思います。

MINAの外観。
──MINAに訪れるのはどんな方々ですか?
小田桐 子どもから年配の方まで本当に幅広いです。まだオープンして半年弱ですが、もう常連さんもいます。塾の前後に小学生の子と親御さんが一緒にご飯を食べたり、会社帰りに夜ご飯を食べに来たり。渋谷に髪を切りに来るたびに必ず立ち寄ってくれる女性もいます。塾や仕事、美容院と同じように、その人の生活のルートにMINAが入っている。そういう様子を見ると、MINAが少しずつ街の日常になってきたと感じます。
──素敵な風景ですね。街に文化が根付いたといったところでしょうか。
小田桐 街に根付くのは簡単なことじゃなくて、結局大切なのは継続。場所をつくっただけでは根付いたとは言えない。きちんと続けていく必要があります。お店をオープンして完成ではなく、むしろそこから始まる。いつかMINAが街に根付いていると感じることができたら、とりあえずホッとすると思います(笑)。
荻野 この場所も永遠にあるわけではありません。だから僕らは「風景をつくる」と表現しています。なくなったあとにも、「ここにMINAっていうミュージアムカフェがあったよね」と思い出してもらえる場所になったらうれしいですね。

Museum of Imaginary Narrative Arts[MINA]
住所:〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3-7-1
アクセス:渋谷駅東口より徒歩3分、C1出口より徒歩1分
開館時間:11:00〜22:00(ラストオーダー21:00)
休館日:なし(展示替えの際は搬入&搬出のため休館)
Instagram:https://www.instagram.com/mina_shibuya/

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